1992年6月、グアムで開かれた国際サンゴ礁シンポジウムで、オーストラリア
海洋科学研究所のクライム・ウェルキンソン博士は「今、世界の著名なサンゴ礁
が危機にされされている」と警告を発しました。その発言を裏付ける形で、40
年以上にわたって世界各地のサンゴ礁を観察し、記録しているオーストラリアの
水中カメラマンのベン・クロップ氏も「各地のサンゴは、ここ15年くらいの間
に70%〜100%死滅している。人間の手によるサンゴの殺害が世界中で見ら
れる」と自身の経験を踏まえて、“サンゴの海の危機”を日本のテレビ番組の中
で証言しました。
国際環境保護団体グリーンピースの科学部長、ジェレミー・レゲット博士は最
新のリポートで「1983年のエルニーニョ現象で、ガラパゴス諸島周辺の海水が異
常高温となり、サンゴ礁の一部で90%以上のサンゴが死滅し、現在も回復して
いない」と報告しています。また同博士は、カリブ海や仏領ポリネシア、アンダ
マン海などでも近年、地球温暖化現象の影響として、大規模なサンゴ漂白化現象
が観察されていると述べています。
“東洋のガラパゴス”と称される日本の南西端に位置する沖縄県−亜熱帯の気
候風土の中、独自の生物相を持ち世界的に貴重な動植物が生息するサンゴ礁の島
々ですが−周辺の海もこの例外ではありません。ここのサンゴ礁でも、1972年の
アメリカからの日本復帰以降、乱開発による赤土流出やオニヒトデの大発生によ
る食害などによって、その95%が死滅したといわれています。
このように世界中の海の中で“海の砂漠化”が進み、サンゴの海が危機に瀕し
ています。そのような中、沖縄県石垣島白保の海(わずか長さ10km, 幅約1km
の海域ですが)には今なお、50属120種以上のサンゴが健全な状態で生息していま
す。この属種の数は世界最大のサンゴ礁・グレートバリアリーフ(オーストラリ
ア、長さ約2千km)のそれの3分の2以上を占めているといわれています。そし
てそこには世界にも類のない千年以上も生きてきたアオサンゴの大群落や直径6
メートル以上、高さ3メートルもある円筒状のハマサンゴ(マイクロアトール)、
さらには花びらのように美しいウスコモンサンゴなどが群生。その間を亜熱帯の
色鮮やかな魚たちが泳ぎ回り、まさに日本最後の、そして世界でも数少ない“海
の楽園”が広がっています。
ところが沖縄県は1979年、このように世界的にも貴重なサンゴの海を埋め立て
て、新空港をつくる計画を発表しました。以来、「白保の海を守れ!」の声は国
内外に広がり、国際自然保護連合(IUCN)は1987年に独自の調査を実施。「
北半球において、最大かつ最古のアオサンゴを含めて、科学的に貴重な多くの自
然相を有する豊かなサンゴ礁群落の特に顕著な例」と絶賛し、1988年および19
90年の総会決議で計画案の変更を求めました。
また1992年3月には、英国のエディンバラ公・世界自然保護基金(WWF)総
裁も現地を視察、「白保は世界的にも重要なサンゴの宝庫である」とその保護の
必要性を強く訴えました。
このような多くの国内外の市民、研究者、著名人そして自然保護団体などの大
きな声によって、1992年11月、白保のサンゴの海を埋め立てる計画案はようや
く撤回され、あらたに陸上部での建設計画が決定されました。しかしながらこの
陸上部に作ると言う新しい計画案でも、工事による白保のサンゴの海への土砂流
出が危惧されています。またいまだに白保の海を埋め立てて新空港建設を、とい
う根強い声が地元・石垣島や沖縄県議会の中に残っており、白保のサンゴ礁保護
にとっては、まだまだ予断を許さない状況が続いています。
私たちはこの間、白保の世界的に貴重なサンゴ礁生体系をあらゆる開発から守
り、後世に残していくため、「白保の海を『世界の遺産』に」を合言葉に、キャ
ンペーンを展開してきました。これは白保の海を世界遺産条約(*)に基づく「
世界遺産」リストに登録し人類の宝として国際的な監視のもと、いつまでも自然
のままに保護して行こう、とする運動です。
日本政府は1994年5月、日米新経済協議の柱のひとつ「地球的展望に立った協
力」分野の中に、サンゴ礁の保全を加えることでアメリカ政府と合意し、破壊の
進む世界各地のサンゴ礁の保全を、日米両政府が中心になって進めることを確認
しました。そして1995年の5月29日〜6月2日にフィリピンで、保護のための
行動計画を策定する国際会議の開催を予定するなど、サンゴ礁保全に積極的な姿
勢をアピールしています。
しかしながら日本政府は足もとの白保サンゴ礁の保全に対しては、地元開発派
に気を使い、私たちの要求には進んで対応しようとはしていません。
この意見広告は、「白保の海を『世界の遺産』に」の国際世論を、いっそう盛
り上げるために取り組まれたものです。なぜなら日本政府は、きわめて残念なこ
とですが、国内の世論よりも国際的な声に弱く、これまでもたびたび対外圧力に
よって、自らの方針を変更してきているからです。
戦後、日本は経済的には大きな成功を収めましたが、環境問題への取り組みは
まだまだ遅れています。日本政府が白保の海を守るため積極的に取り組むことは、
ただひとつの環境問題を解決するだけではありません。
経済優先だった日本の施策を、真に環境保全に配慮していく姿勢に、大きく方
向転換させる第一歩になると私たちは確信しています。そして私たちはまた、そ
れが地球環境の危機が叫ばれている中、経済力と技術力をともなって、日本の大
きな国際貢献になるとも信じています。
“海のオアシス”白保のサンゴの海を永遠に守るために、「白保の海を『世界
の遺産』に」のあなたの声を、ぜひ日本政府に届けてください。
送り先
〒100 東京都千代田区永田町2−3−1
内閣総理大臣 小泉純一郎
WWWからは、首相官邸 ご意見募集からでも送れます。