IUCNは1990年に既に現空港拡張案を提言

 事務局ではこのほど、IUCN(国際自然保護連合)が1990年11月に発行した「白保新空港建設案(カラ岳東案)の総合影響評価」のレポート(英文)を入手しました。同レポートは、国内の自然保護団体や地元住民の協力を得て、十分な現地調査を実施してまとめられたもので、八重山の文化、経済にも考慮したうえで、白保のサンゴ礁を守るための数多くの勧告を行っています。時間と能力の制約上、入手したレポートのすべてを翻訳、掲載はできませんが、概要と最も重要な勧告について紹介します。

白保空港建設案の影響に対する評価

IUCN-The World Conservation Union
1990年 11月

−−概要−−

 白保新空港建設案(カラ岳東案への変更)の発表は、八重山諸島の人々に大きな衝撃と動揺を与えている。これらの島々にとって、経済開発が非常に重要であることは疑う余地はない。空港施設は利用客と貨物の双方にとって、また地域の経済発展のために欠くことのできないものである。
 この地域の気候は亜熱帯で、島々は地震、津波、悪天候に弱く、天候の変化もはなはだしい。農業開発と公共事業は島の風景を一変させ、排水系統は結果として大地を侵食し、大量の土砂を流失させている。
 農業はほとんど利益をあげているようには見えない。島の人々が生活を依存する海洋資源は衰退の傾向にある。政府による広範な公共事業は島に一時的にお金と雇用をもたらすが、それらは短期間に過ぎず、長期間にわたって経済発展を維持するものを生み出すことはない。そのうえ、結果的にこれらの公共事業によってもたらされた環境へのダメージは、一時的に得た経済的利益とは比べものにならないほど大きい。現在、たったひとつ経済的に成長している分野は観光関連の事業であり、亜熱帯という地域特有の環境に依存しているものである。

中略

 この報告書が最も言わんとするところは、もし空港が白保に造られるなら、サンゴ礁は壊滅する。そしてこの石垣島周辺の海域で最も状態のよいサンゴ礁の破壊は漁業、観光、そしてサンゴ礁に生活をゆだねている地域住民に直接悪影響をおよぼす。空港建設により陸地を改変することは、排水系統と住民が頼みにしている地下水脈に悪影響をおよぼす。

中略

 もし生態系全体を完璧に保護するために責任ある対応が取られたなら、豊かな白保のサンゴ礁生態系は維持され、社会的、経済的利益を今後いく世代にもわたってもたらし続けるはずである。
問題は増え続ける航空需要と沖縄へ向かう便の輸送能力の増強、そして東京行直行便をぜひとも開設したいという思いである。東京の魚市場を重要視すれば、沖縄本島での載せ換えの手間を省く直行便がどうしても必要になる。しかし、漁獲が減少すれば、長期間にわたって空輸を増加させることは実現できないであろう。たとえ、新しい航路や新しい設備があったとしてもである。
 それどころか、ほとんどの島で行われている公共事業は、すべてのサンゴ礁域で生産性に深刻な悪影響をもたらしている。このため、近い将来、航空貨物の輸送量は急落する恐れがある。新しい空港を白保に造れば、漁獲量は減少し、漁獲物の航空輸送量は減るだろう。
 また、最後に考えられることは、より大きな輸送能力をもち、より短い滑走路で着陸できる航空機の導入による輸送能力の増加である。新しいエアバスとボーイングの航空機はこれらの必要条件を満たし、沖縄本島までの輸送能力をたやすく25〜30%増やすだろう。

−−勧告−−

 新空港の建設地は変更されなければならない。最も現実的で、早く、経済的にできるのは、単純に現在の滑走路を500m拡張することである。必要な安全地帯は今ある滑走路周辺の未開発の部分に設置可能であろう。土地の取得も最小ですむはずである。
 道路と排水系統の変更はより小規模ですむか、変更せずにすむかもしれない。これなら時間的にも速く、安く解決できる。空港周辺の地域で悪化が懸念されている騒音公害に対しては、より大きな輸送能力をもった航空機の運行により1日の発着数が減ることを指摘しておく。さらに新型の航空機は、現在運行しているものより低騒音化されているのである。


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